肺動脈性肺高血圧症(PHA)と鍼灸・指圧マッサージの有効性について情報を求めている皆様へ。
この難治性の血管疾患とその治療は、心臓に大きな負担をかけ、患者さんの生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼします。肺高血圧症(PH)について、難治性の血管疾患とその治療の現状を正しく理解することは、適切なケアを選択する第一歩です。長期にわたる難病PAH治療を支援する豊島区機能回復券の対象疾患でもあることから、西洋医学的な治療に加えて、補完療法としての可能性に関心を持つ方が増えています。
本記事では、鍼灸治療がもたらす全身調整とQOL向上への期待、そしてストレス緩和に有効な指圧マッサージの役割を具体的に解説します。しかし、何よりも優先されるべきは安全性です。静脈血栓塞栓症(VTE)についての基礎知識とPAHの関係性を踏まえ、血栓リスクを考慮した指圧マッサージの安全性と注意点を徹底して紐解いていきます。
さらに、肺動脈性肺高血圧症の背景にある医原性リスクと予防の視点として、静脈血栓塞栓症(VTE)について、なぜ病院内で6割も起こるのかといった実態や、薬が原因となる薬による血栓症 (医原性血栓) の危険性についても触れていきます。また、妊婦の服薬による新生児遷延性肺高血圧症 (PPHN) リスクや、過去の事例である「食欲抑制薬の正体に関する指摘」とPAHの発症リスクなど、患者さん自身が知っておくべき重要な背景情報を提供します。
最終的に、鍼灸治療と西洋医学的治療の併用に関する研究の現状を整理し、難病と向き合う方が安全かつ効果的に日々を過ごすための指針を提示します。
この記事のポイント
- 鍼灸と指圧マッサージがQOL向上や全身調整を支える補完療法として期待される役割
- 豊島区機能回復券をはじめとした公的支援制度を利用して施術を受ける方法
- 血栓症のリスクを回避するために不可欠な足への強い施術制限などの安全上の注意点
- 過去の薬物事例や病院内での血栓発生リスクといった疾患の背景にある医原性知識
難病指定:肺動脈性肺高血圧症(PHA)と鍼灸・指圧マッサージの有効性
肺高血圧症(PH)について:難治性の血管疾患とその治療

肺高血圧症(PH)について:難治性の血管疾患とその治療
肺高血圧症(PH)は、心臓から肺へと血液を送り出す「肺動脈」の血圧が異常に上昇する病気です。通常、肺の血管は非常にしなやかで、低い圧力で血液をスムーズに流すことができますが、この疾患では肺の細い血管が狭くなったり、硬くなったりする「血管リモデリング」が起こります。
この状態は、心臓の右側に位置し、肺へ血液を送り出す役割を担う「右心室」に甚大な負担を強いることになります。狭くなった通路に無理やり血液を押し込もうとするため、右心室の筋肉は次第に疲弊し、最終的にはポンプ機能が破綻する「右心不全」を招くリスクを孕んでいます。予後については、近年の薬物療法の進歩により改善傾向にあるものの、かつては5年生存率が50%程度とされるなど、極めて慎重な経過観察が必要な難治性疾患です。
治療においては、肺血管を広げるためのプロスタサイクリン製剤やエンドセリン受容体拮抗薬といった高度な薬物療法、あるいはカテーテルを用いた処置が中心となります。原因は多岐にわたり、膠原病や先天性心疾患に伴うものから、原因不明の特発性まで存在します。そのため、循環器専門医による正確な診断と、継続的な内科的治療が何よりも優先されるべき土台となります。
難病PAH治療を支援する豊島区機能回復券の対象疾患
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、国が定める指定難病の一つです。治療が長期に及ぶことが多く、患者さんは身体的な苦痛だけでなく、医療費の負担や社会生活の制限といった多面的な課題に直面します。こうした状況を支えるため、豊島区では独自の支援策として「機能回復券(指定難病患者機能回復訓練等助成券)」を交付しています。
この制度は、PAHをはじめとする指定難病の診断を受けている方が、日常生活をより円滑に送るための身体機能の維持・回復を目的に、地域の鍼灸院やマッサージ施術所等で施術を受ける際、その費用の一部を助成するものです。
病院での標準治療が病態そのものの改善を目的とするのに対し、機能回復券による鍼灸・マッサージの活用は、闘病生活に伴う心身の疲労や筋緊張を和らげる「生活の質(QOL)の維持」に主眼が置かれています。池袋東口の「癒しの森指圧鍼灸院」でも、この機能回復券を用いた施術に対応しております。公的な助成制度を賢く利用することで、経済的な不安を軽減しながら、心身のメンテナンスを継続できる体制が整えられています。
*池袋東口:癒しの森指圧鍼灸院で機能回復券をご利用の方はこちらのページをご覧ください
鍼灸治療がもたらす全身調整とQOL向上への期待
PAHの患者さんは、安静時でも息苦しさを感じたり、わずかな動作で強い疲労感を覚えたりすることが多いため、身体は常に緊張状態にあります。こうした慢性的なストレスは自律神経の乱れを引き起こし、さらなる不眠や食欲不振、冷えといった全身性の不調を招く悪循環を生みがちです。
鍼灸治療が果たす役割は、特定のツボを刺激することで自律神経系に働きかけ、過剰に優位となった交感神経を鎮めることにあります。副交感神経の働きをサポートすることで、血管の過度な収縮を緩める一助となり、全身の血液循環を穏やかに整える効果が期待されています。
また、活動制限により凝り固まった肩周りや背中の筋肉を緩めることで、呼吸運動に関わる筋肉の動きがスムーズになり、呼吸のしづらさからくる随伴症状(肩こりや頭痛など)の軽減も目指せます。鍼灸は西洋医学的な治療と対立するものではなく、患者さんが本来持っている自己回復力を引き出し、日々の生活をより快適に過ごすための「全身調整のサポーター」として非常に有効な選択肢となり得ます。
ストレス緩和に有効な指圧マッサージの役割
難病との共存は、常に再燃や進行への不安がつきまとう精神的な闘いでもあります。指圧マッサージによる人の手を通じた心地よい刺激は、こうした心理的な緊張を解きほぐす上で大きな意味を持ちます。
指圧の圧刺激は、脳内において多幸感をもたらす「オキシトシン」などのホルモン分泌を促し、深いリラックス効果をもたらすとされています。PAH患者さんの場合、激しい運動が制限されているため、筋肉のポンプ作用が低下し、体内に老廃物が溜まりやすい傾向にあります。無理のない範囲で優しく筋肉を捉える指圧を行うことで、筋肉の柔軟性を取り戻し、精神的な「安らぎ」を提供することが可能です。
特に、夜間の不眠や寝つきの悪さを抱える方にとって、副交感神経を優位にするマッサージは、睡眠の質を向上させ、翌日の活力へと繋げる効果が期待できます。治療の主体はあくまで専門医による薬物療法ですが、指圧マッサージはその治療を継続するための「心の平穏」と「身体の軽やかさ」を支える重要な補完療法と言えます。
静脈血栓塞栓症(VTE)についての基礎知識とPAH
PAHを管理する上で避けて通れないのが「静脈血栓塞栓症(VTE)」のリスク管理です。これは、足の深い部分にある静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症(DVT)」と、その血栓が剥がれて肺の血管に詰まる「肺血栓塞栓症(PE)」を合わせた呼び名です。
かつては長時間飛行に関連して「エコノミークラス症候群」と呼ばれましたが、実際には入院中や手術後など、病院内での発症が全体の約6割を占めるというデータがあります。PAH患者さんの場合、心不全症状による血流の停滞や、長期の安静が必要な場面があるため、一般の方以上に血栓ができやすい環境にあります。
もし足で作られた血栓が肺に飛んでしまうと、ただでさえ高い肺動脈圧がさらに急上昇し、生命に直結する深刻な事態を招きます。また、過去に生じた血栓が肺血管に残ることが原因でPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症など)を発症するケースもあり、血栓の予防と早期発見は、PAH治療において極めて重要なポイントとなります。
血栓リスクを考慮した指圧マッサージの安全性と注意点
PAH患者さんが指圧やマッサージを受ける際、最も警戒すべきは「すでにあるかもしれない血栓を刺激で動かさないこと」です。もし足に深部静脈血栓(DVT)がある状態で、その部位を強く揉んだり圧迫したりすると、血栓が血流に乗って肺へ移動し、肺塞栓症を引き起こす医療事故に繋がる恐れがあります。
そのため、安全を最優先にする当院のような施術所では、以下の点を徹底しています。まず、足への強い揉み出しや、血流を急激に促すような手技は原則として行いません。施術部位は首や肩、背中などの上半身を中心に、優しく触れるような軽擦や、表面的な緊張を解くソフトなタッチに留めることが基本です。
また、施術を受ける前には必ず主治医から「マッサージの許可」と「避けるべき部位」の指示を仰いでいただく必要があります。万が一、片方の足だけに強い腫れや赤み、痛みがある場合は、血栓症の疑いがあるため、マッサージを中止して即座に医療機関を受診しなければなりません。こうした厳格な安全基準を守ることで初めて、指圧マッサージはPAH患者さんにとって安全で価値のあるケアとなるのです。
肺動脈性肺高血圧症の背景にある医原性リスクと予防の視点
静脈血栓塞栓症(VTE)について:なぜ病院内で6割も起こるのか
静脈血栓塞栓症(VTE)は、足の静脈に血の塊ができる深部静脈血栓症(DVT)と、それが肺に飛んで血管を塞ぐ肺血栓塞栓症(PE)を合わせた病態です。かつては長時間のフライトに伴うエコノミークラス症候群として注目されましたが、近年の調査では、その発生場所の約60%が病院内であるという事実が明らかになっています。
病院内でこれほど高い頻度で血栓症が起こる背景には、治療そのものが持つリスクが深く関わっています。大きな手術後や重症疾患による長期のベッド上安静は、足の筋肉によるポンプ機能を停止させ、血液を停滞させます。また、手術による血管の損傷や、癌(悪性腫瘍)そのものが持つ血液を固まりやすくする性質、さらには脱水状態などが重なり、血栓形成の条件が揃いやすくなるのです。病院という「病気を治す場所」において、動けないこと自体が新たな疾患のリスクを生むという現実は、PAH(肺動脈性肺高血圧症)のリスク管理を考える上でも、早期離床や適切な予防策がいかに重要であるかを物語っています。
薬が原因となる薬による血栓症 (医原性血栓) の危険性
私たちが健康を回復するために使用する医薬品が、予期せぬ副作用として血栓を形成してしまうケースがあり、これを「医原性血栓」と呼びます。血栓は発生する部位によって脳梗塞や心筋梗塞、あるいは静脈血栓塞栓症(VTE)へと発展するため、服用する薬剤の特性を理解しておくことは非常に重要です。
特に注意を要するものとして、女性ホルモンを調整するエストロゲン製剤や経口避妊薬(ピル)が挙げられます。これらは血液の凝固系に影響を与え、血栓リスクを高めることが知られています。また、一部の抗がん剤や糖尿病治療薬、さらには意外なことに血液をサラサラにする目的で使われるワルファリンの投与初期など、多岐にわたる薬剤で血栓形成の報告が存在します。PAHの患者さんは心肺機能への影響を最小限に留める必要があるため、新たな薬を服用する際や長期的な治療を行う場合には、主治医や薬剤師との密な連携が不可欠となります。手足のしびれや急な息切れといった初期サインを見逃さない意識が、重篤な医原性リスクから身を守る鍵となります。
妊婦の服薬による新生児遷延性肺高血圧症 (PPHN) リスク
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)は、出生直後の赤ちゃんの肺動脈圧が下がらず、全身への酸素供給が困難になる極めて重篤な状態です。この病態の発症には、妊娠中の母親の服薬環境が影響を及ぼしている可能性が多くの研究で指摘されています。
代表的な例として、うつ症状の治療に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)があります。妊娠中期から後期にかけての服用は、赤ちゃんのPPHN発症リスクを数倍に高めるという報告があり、薬成分が胎盤を通じて胎児の血管発達に干渉する可能性が懸念されています。また、市販の解熱鎮痛薬(アスピリンやイブプロフェンなど)も、妊娠後期の安易な使用は赤ちゃんの血管系に悪影響を与える恐れがあります。新しい命を守るためには、妊婦さん自身の自己判断による服薬を避け、漢方薬やサプリメントを含め、すべての摂取物について専門医の指導を仰ぐという徹底した予防姿勢が求められます。
過去の事例:「食欲抑制薬の正体に関する指摘」とPAH
肺動脈性肺高血圧症(PAH)の歴史を振り返る上で、特定の食欲抑制薬が引き起こした健康被害は看過できない教訓を残しています。かつて使用されていた食欲抑制薬(サノレックス等)の中には、その薬理作用がアンフェタミン(覚醒剤)と酷似しているものが存在したという指摘があります。
これらの薬物は、脳の中枢神経に働きかけて食欲を抑える一方で、肺の血管を強く収縮させたり、血管内壁を損傷させたりする副作用を内包していました。当時の動物実験では、依存性の確認や幻覚症状といった覚醒剤特有の反応が認められた事例もあり、安易なダイエット目的の服薬が、取り返しのつかないPAHという難病を誘発する引き金となったのです。この事例は、医薬品が持つ「隠れたリスク」の恐ろしさを象徴しており、現代においても薬物の乱用や安易な個人輸入薬の使用が、肺血管という繊細な組織を破壊し、一生続く難病を招く可能性があることを強く警告しています。
鍼灸治療と西洋医学的治療の併用に関する研究の現状
PAHのような高度な専門性を要する疾患において、鍼灸治療が標準的な医療に取って代わることはありません。しかし、現代の医療現場では、西洋医学と補完医療を組み合わせることで患者さんの生活の質(QOL)を最大化する試みが進められています。
現在の研究において、PAHに対する鍼灸の直接的な治療効果を断定する大規模な証拠はまだ発展途上です。しかし、一般的な高血圧に対する降圧補助作用や、自律神経の調整によるストレス緩和、痛みの閾値の変化については多くの知見が積み上げられています。PAH患者さんが抱える「呼吸のしづらさからくる不安」や「活動制限による筋痛」に対し、鍼灸が自律神経系を介して心身の緊張を解きほぐす役割を果たすことは、標準治療を円滑に継続するための大きな支えとなります。あくまで主治医による薬物療法を主軸とし、その効果を最大限に享受するためのコンディショニングとして鍼灸を併用することが、現在の医学的見地から見た最も安全で効果的な活用法と言えます。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療における鍼灸・指圧マッサージの役割と注意点
- PAHは肺動脈圧が異常に高くなる難病であり、右心不全に至る危険がある
- 肺動脈血管の狭窄や硬化(リモデリング)が病態の根本的な原因である
- 治療には専門医による薬物療法やカテーテル治療等の標準治療が不可欠である
- 豊島区の機能回復券を利用することで指定難病患者は施術費の助成を受けられる
- 鍼灸やマッサージの目的は根本治療ではなく生活の質(QOL)の維持・向上にある
- 鍼灸治療は自律神経のバランスを整え、病気に伴う不安やストレスを緩和する
- 適切なツボ刺激により全身の血液循環を整え、肩こりや筋痛などの随伴症状の緩和を目指す
- 指圧マッサージは副交感神経を優位にし、心身のリラックスと睡眠の質を高める
- PAH患者は血流停滞等により深部静脈血栓症(DVT)のリスクを抱えている
- 病院内での発生が6割を占める静脈血栓塞栓症(VTE)への深い理解が必要である
- DVTがある部位を強く刺激すると血栓が肺に飛び、肺塞栓症を招く恐れがある
- 施術時は足への強い刺激を避け、上半身を中心とした穏やかな手技を徹底する
- ホルモン剤や一部の薬が血栓を誘発する「医原性血栓」のリスクを認識しておく
- 施術を開始する前には必ず主治医の許可を得て、病状や投薬状況を共有する
- 安全性を最優先し、標準治療を補完するケアとして活用することが重要である
