もやもや病と鍼灸・指圧マッサージの効果と安全な受け方

2025年11月18日

もやもや病（指定難病２２）と診断され、鍼灸治療や指圧マッサージといった補助的なケアについて情報を集めている方もいらっしゃるかと思います。この病気は、内頚動脈の終末部が閉塞し、異常なもやもや血管が発達する指定難病であり、その原因は現在も解明されていません。治療の中心は脳卒中を予防するための手術治療という標準治療ですが、日常生活の中で抱える慢性的な頭痛や体のこわばり、ストレスといった症状の緩和を目的として、もやもや病の方が鍼灸や指圧マッサージの施術を受けたいと考えるのは自然なことです。

この記事では、まずもやもや病とは何か、そして標準治療や、特定の薬剤投与のリスク、さらには「四毒」などの食事との関連性といった基本的な知識を解説します。その上で、鍼灸治療や指圧マッサージがもたらす期待される効果と、何よりも重要な安全上の注意点、そして施術を受ける前に主治医への確認が必須である理由を詳しくお伝えします。また、豊島区機能回復券の利用対象と交付制度など、公的なサポートについても触れ、もやもや病患者さんのQOL向上のための補助的な活用方法をご提案します。安全かつ効果的に施術を受けるための知識を深め、より良い日常生活を送るためにお役立てください。

この記事のポイント

もやもや病の基本と標準治療の位置づけ：難病の概要、原因、脳卒中を予防する手術治療が標準であること
鍼灸と指圧マッサージの役割と限界：根本治療ではなく、頭痛やこり、不眠などの症状緩和を目的とする補助療法であること
施術を受ける際の最大の安全上の注意点：施術前の主治医の許可、および強い刺激や首への圧迫を絶対に避けるべき理由
生活上の注意と制度の活用：日常生活で避けるべき行為（過換気など）と、豊島区の機能回復券制度の利用対象

もやもや病とは？標準治療と鍼灸・指圧マッサージの位置づけ

もやもや病とは：脳血管に異常が起こる難病

もやもや病は、脳に血液を送る主要な血管である内頚動脈の終末部が、徐々に細くなったり、最終的に閉塞したりする進行性の疾患です。この病気の最も大きな特徴は、この閉塞によって脳の血流が足りなくなった状態（虚血）を補うために、脳の底部や脳室周囲に無数の細い血管が異常に発達することです。この異常血管の集まりが、造影検査で「もやもや」と煙のように見えることから、その病名が付けられました。また、閉塞が起こる場所が脳血管の環状の集合部分である「ウィリス動脈輪」であることから、医学的には「ウィリス動脈輪閉塞症」とも呼ばれます。この病気は発症すると脳卒中のリスクが非常に高くなるため、厚生労働省によって指定難病とされています。この病気のリスクは「虚血型」と「出血型」の二つに分けられます。虚血型では、脳の血液が不足することで、一時的な手足のしびれや麻痺、あるいは言語障害などがしばしば見られます。特に小児の場合、熱い食べ物を冷ます動作や運動など、息切れを伴う行為で体内の二酸化炭素濃度が下がり、血管が収縮することで症状が出やすいという特徴があります。一方で、血流不足を補おうと発達した「もやもや血管」は非常に脆く、これが破れてしまうと脳出血を引き起こし、激しい頭痛や意識障害、重度の麻痺を起こす可能性があり、生命に関わることもあります。国内では人口10万人あたり6〜10人程度の割合で存在すると推定されており、約1万6千人以上が患者として登録されています。

原因：現在も解明されていない病態

もやもや病の根本的な原因は、現在の医学でも完全に解明されていません。しかし、発症のメカニズムには遺伝的な素因が深く関わっていることが分かっています。まず、家族内発症の傾向があり、患者さんの約10〜20%は親や兄弟姉妹、いとこなど近親者にも患者さんが見られるケースがあります。最近の研究では、RNF213遺伝子の特定の多型（p.R4810K）が、もやもや病の発症しやすさ（なりやすさ）に強く関わっていることが明らかになっています。この遺伝子多型は、もやもや病の素因として重要な役割を担っており、特に日本を含む東アジア地域で多く見られます。しかし、この遺伝子多型を持つ人が必ずしも全員もやもや病を発症するわけではないため、遺伝的要因だけでは病気の発症をすべて説明することはできません。現在のところ、遺伝的な「病気の成りやすさ」という素因を持った人が、何らかの他の環境的要因や後天的な要因にさらされることで、脳の血管に異常を来し、内頚動脈の閉塞が進行すると考えられています。つまり、もやもや病は、単一の原因で発症するのではなく、複数の要因が複雑に絡み合った結果として発症する病態であると理解されています。家族内に比較的若くして脳卒中を患った方がいる場合など、家族性の発症が疑われるケースでは、未発症の親族もMRIなどで脳の血管を調べておくことが推奨されていますが、遺伝が関わる疾患であっても、必ずしも親子や兄弟で伝わるとは言い切れないという点が、現在のデータが示す事実です。

標準治療：脳卒中を予防する手術治療

もやもや病の治療の基本は、脳卒中の発症を予防することにあります。最も効果的で中心となる治療法は、外科的な血行再建術、すなわちバイパス手術です。この手術は、原因となっている内頚動脈の閉塞自体を直接治すことを目的とするのではなく、閉塞した血管の代わりに脳へ血液を送る新しいバイパス経路を人工的に作成することを目的としています。このバイパスによって、不安定な血流供給が安定化され、脳梗塞や脳出血といった重篤な脳卒中を起こすリスクを大幅に下げることが可能になります。手術には、頭皮の血管と脳の血管を直接つなぐ「直接バイパス術」（主に成人で適用）や、血管を成長させる組織を脳表面に接触させて自然な血管形成を促す「間接バイパス術」（主に小児で適用）があり、患者さんの病態や年齢に応じて選択されます。虚血発作で発症した患者さんに対しては、血栓（血の塊）ができるのを防ぎ、血液を固まりづらくする抗血小板薬が内科的な治療として使用されることもあり、一定の脳梗塞予防効果があると考えられています。ただし、もやもや病は脳出血のリスクも高いため、抗血小板薬の使用は脳卒中専門医の慎重な判断のもとで行われます。脳梗塞や脳出血といった急性期の脳卒中を発症した直後の場合は、まず一般的な脳卒中の治療が行われ、患者さんの症状が安定した段階で、再発予防を目的とした外科的治療の適用が検討されるのが標準的な流れです。適切な治療と管理により、現在では多くの患者さんが症状的に安定した生活を送り、学業や就労、妊娠出産といったライフイベントを送ることが可能となっています。

もやもや病を起こす薬剤：特定の薬と症状悪化のリスク

もやもや病は進行性の原因不明の疾患であり、「この薬を服用するともやもや病を発症する」と医学的に確定されている薬剤は、現在のところ存在しません。しかし、もやもや病と診断されている患者さんに対しては、特定の作用を持つ薬剤の使用が症状（一過性脳虚血発作など）の悪化を誘発するリスクがあるため、慎重な投与が求められます。もやもや病の患者さんは、内頚動脈の閉塞により脳の血流調節機能が低下しているため、脳血管に作用する薬の影響を受けやすい状態にあります。特に注意が必要な薬剤群として挙げられるのが、血管収縮作用を持つものです。例えば、片頭痛の治療に用いられるセロトニン1B/1D受容体作動薬（スマトリプタンやゾーミッグなどの一般名・商品名）は、その強力な血管収縮作用が脳血管にも及び、もともと血流が不足している領域をさらに虚血状態にするおそれがあります。このため、多くの薬剤の添付文書では、「ウィリス動脈輪閉塞症（もやもや病）の患者には投与しないこと」として禁忌に指定されています。また、特定の薬剤は病気を起こすのではなく、もやもや病の診断補助に使われます。例えば、アセタゾラミド（ダイアモックス）は、脳の血管を一時的に広げる作用を利用し、脳の血流予備能（血流を増やす能力）を評価するための負荷試験に用いられます。このように、もやもや病患者さんに対する薬剤の処方は、その血管のデリケートな状態を考慮して、非常に慎重に行われる必要があります。

四毒（小麦、植物性の油、牛乳・乳製品、甘いもの）との関連はある？

吉野敏明先生が提唱する「四毒」（小麦、植物性の油、牛乳・乳製品、甘いもの）の摂取が、もやもや病の発症や進行に直接的な影響を与えるという科学的、あるいは医学的なエビデンスは、現在の標準治療の見解としては確立されていません。もやもや病は、遺伝的要因や自己免疫的な要因などが複合的に関与する難病であり、特定の食品を排除することで病態が根本的に改善するという報告は確認されていません。しかしながら、この「四毒」理論が着目している慢性炎症や酸化ストレス、血糖値の乱高下といった要素は、もやもや病を問わず、全身の血管の健康にとって非常に重要なテーマです。例えば、過剰なブドウ糖（甘いもの）の摂取は高血糖を引き起こし、血管内皮細胞を損傷して動脈硬化を促進します。また、高温で酸化しやすい植物性の油の過剰摂取は、アルデヒドなどの有害物質を生じさせ、全身の酸化ストレスを高める可能性があります。これらは間接的に血管の健康を損なう要因になり得ますが、もやもや病の内頚動脈終末部の閉塞という特異的な病態を直接引き起こす原因としては特定されていません。したがって、もやもや病と診断された方が、全身の健康を保つために「四毒」を意識した食生活を行うことは、慢性炎症の抑制や血管への負担軽減という観点から有益である可能性はありますが、もやもや病の標準治療（外科手術や抗血小板薬）に代わるものではなく、厳格な食事制限を行う際は、栄養不足にならないよう必ず主治医や管理栄養士に相談することが重要です。

もやもや病の方が鍼灸や指圧マッサージを受ける際の注意点と豊島区の制度

鍼灸治療：期待される効果と限界

もやもや病と診断された方が鍼灸治療を検討する場合、その役割は標準治療（外科手術など）を補完する補助的なケアであると理解することが重要です。鍼灸は、閉塞した内頚動脈を広げたり、もやもや血管を消滅させたりするような疾患の根本的な治癒を目的とするものではなく、主に患者さんが日常的に抱える症状の緩和や、全身の体調管理によるQOL（生活の質）の向上に役立つことが期待されます。具体的には、脳血流の異常や精神的な緊張からくる慢性的な頭痛や首・肩のこわばりに対する緩和効果が期待できます。また、鍼灸の刺激が自律神経のバランスを整えることで、もやもや病患者さんが感じやすいストレスや不安感、不眠などの症状を和らげ、リラックス効果をもたらすことも期待される作用の一つです。ただし、もやもや病の血管は非常にデリケートな状態にあるため、施術の際には細心の注意が必要であり、強い刺激や血圧を急激に変動させるような治療は避けるべきです。もやもや病に対する鍼灸治療の有効性を示す大規模な科学的エビデンスはまだ限定的であるため、主治医に許可を得て、もやもや病の知識がある施術者に、患者さんの病態や既往症を正確に伝えたうえで、安全性の高いソフトな施術を受けることが大切です。

指圧マッサージ：症状緩和と安全上の注意

指圧マッサージも、もやもや病の患者さんに対して、主にリラクゼーションと筋緊張の緩和を目的とした補助的なケアとして利用されることがあります。この病気の患者さんは、頭痛やストレス、無意識の体のこわばりなどによって、首、肩、背中の筋肉が慢性的に緊張している場合が多く、指圧やマッサージによってこれらの筋肉を緩めることで、不快な症状の軽減につながることが期待されます。また、心地よい刺激は全身の血流を緩やかに促し、副交感神経を優位にすることで、不安感やイライラといった精神的な負担を和らげ、深いリラックス効果をもたらします。しかし、指圧マッサージを利用する際には、安全上の注意を最優先しなければなりません。もやもや病の患者さんは脳血管の予備能が低く、強い刺激や急激な体位変換は、血圧を大きく変動させたり、脳への血流を一時的に阻害したりするリスクがあるため、脳虚血発作や脳出血を誘発する危険性があります。特に、首（頚動脈付近）や頭部への強い圧迫、急激なストレッチなどは絶対に行ってはいけません。施術者に対しては、もやもや病であることと、現在の病態を必ず伝え、リスクのある部位を避け、非常にソフトで穏やかな刺激にとどめてもらうことが、安全にマッサージを受けるための必須条件となります。

施術を受ける前に主治医への確認は必須

もやもや病の患者さんが、鍼灸治療や指圧マッサージといった代替療法を検討する場合、必ず事前に主治医（脳神経外科または神経内科）の確認と許可を得ることが、安全を確保するための最も重要なステップとなります。もやもや病の病態は患者さんごとに異なり、進行度や既往症（過去の脳出血や脳梗塞の有無）、外科的な治療（バイパス手術）からの経過時期などによって、施術を受けることのリスクが大きく変動するためです。特に、出血型の患者さんや、病状が不安定な急性期の患者さんの場合、鍼灸やマッサージによる血流や血圧のわずかな変動でも、重篤な脳卒中を誘発する可能性があります。主治医に相談する際には、「どのような目的で、どのような施術内容（部位、刺激の強さ）を受ける予定か」を具体的に伝え、施術の可否について指示を仰ぎましょう。また、施術を行う鍼灸師やマッサージ師も、患者さんから主治医の許可を得ていることを確認し、もやもや病の知識に基づいて禁忌とされる部位や強い刺激を避ける必要があります。このように、主治医、施術者、患者さんの三者が情報を共有し、連携を取ることで、安全性を最大限に高めた上で、症状緩和というメリットを享受することが可能になります。

豊島区機能回復券：利用対象と交付制度

もやもや病で診断され、一定の基準を満たす豊島区在住の患者さんは、区の福祉制度として機能回復券（はり・きゅう・マッサージ等）の交付を受けることができます。この制度は、難病による身体的な不調や機能低下を補い、日常生活の質の向上を図ることを目的としています。機能回復券の利用対象者は、身体障害者手帳1級から4級の肢体不自由の方、戦傷病者手帳第3項症以上の方に加え、難病患者福祉手当を受けている方が含まれます。もやもや病は指定難病であるため、この手当の受給要件を満たし、手当を受けている場合には、機能回復券の交付対象となります。この受給券は、豊島区と契約している業者で、はり・きゅう・マッサージ・指圧の施術を受ける際に利用できるもので、年間12枚が交付されます（1か月につき1枚のペース）。申請した月によっては、初年度は翌年3月分までの受給券が交付され、翌年度からは1年分が交付されます。利用時には、1回の施術につき300円の自己負担が発生しますが、比較的安価に専門的な施術を受けることが可能です。ただし、入院中の方や施設入所されている方は、この制度の対象外となりますので注意が必要です。利用を希望する場合は、障害福祉課のサービス調整グループに問い合わせ、詳細な手続きや必要書類を確認する必要があります。この制度は、もやもや病の標準治療を補い、慢性的な体のこわばりや痛みの緩和、リラックス効果を得るための有効な手段となります。

＊池袋東口：癒しの森指圧鍼灸院で機能回復券をご利用の方はこちらのページをご覧ください

日常生活で必要な注意点

もやもや病の患者さんが日常生活を送る上で最も重要なのは、脳の血流状態を悪化させる要因を避けることです。もやもや病では、脳血管の収縮や血流不足が症状を誘発するため、特に体内の二酸化炭素濃度が低下する状態（過換気）と、急激な血圧の変動に注意が必要です。小児の場合、熱い麺類などを冷ますために「ふーふー」と息を強く吹きかける行為や、激しい運動、楽器演奏などで息切れを伴うと、二酸化炭素濃度が低下し、脳血管が収縮して虚血発作が起きやすくなります。そのため、症状がしばしば現れる時期には、激しい運動などは控え、早期に主治医と手術治療について相談することが推奨されます。また、精神的なストレスや強い興奮も血圧を上昇させたり、血管収縮を引き起こしたりする可能性があるため、ストレスを溜めない生活を心がけることが大切です。脳血管の閉塞状態は人によって異なりますが、徐々に進行するケースもあるため、症状が安定している場合でも、主治医の指示に従い定期的なMRIなどによる検査を継続し、病状の変化を把握することが不可欠です。手術後、症状が安定している患者さんであれば、過度な生活制限は不要とされていますが、しびれや脱力の発作が続く場合は、その期間（半年～1年程度）を除き、基本的には日常生活を大きく制限する必要はないと考えられます。

QOL向上のための補助的な活用を

もやもや病は、脳卒中のリスクや長期的な後遺症の不安を伴うため、患者さんの生活の質（QOL）に大きな影響を与えます。鍼灸治療や指圧マッサージなどの補助療法は、疾患の根本治療ではなく、このQOLを向上させるための手段として活用すべきです。標準治療（手術や内科的治療）によって脳卒中のリスクをコントロールしつつ、これらの補助療法を併用することで、もやもや病の症状ではない慢性的な頭痛、首や肩のこり、不眠、ストレスや不安といった全身の不調を緩和することができます。特に、鍼灸やマッサージが持つリラクゼーション効果は、自律神経を整え、ストレスによる血圧の変動リスクを間接的に下げることにも繋がる可能性があります。補助療法を活用する最大の鍵は、「安全性の確保」と「主治医との連携」です。マッサージや鍼灸は、強い刺激や不適切な手技を行うと、かえって症状悪化や脳卒中の誘発リスクを高めてしまうため、必ずもやもや病の診断を伝えた上で、ソフトで穏やかな刺激に限定してもらう必要があります。豊島区の機能回復券のような制度を利用して、費用負担を抑えつつ専門的な施術を定期的に受けることは、身体的な苦痛を軽減し、病気と付き合いながらより安定した日常生活を送るための強力なサポートとなり得ます。